
永い永い岬の経歴の、ほんの一瞬にすぎないその嵐の日、古代から中世への入り口に立つ一人の青年は、寒さとも恐れとも異なる戦きに打ち震えていた。

岬に至る尾根沿いの道は、西風に煽られ異様にひしゃげた亜熱帯の植生がびっしりと覆い、その濃度ゆえに却って静かだった。その豊穣な茂みの中で、知識人であるとともに古代人でもあった彼は、南端の極みに近づくにつれていやます命の凝縮に、実はむせかえっていたのではなかったか。

しかし、とある岩宿の頂きに立った瞬間、彼は、絶対的な結界を見てしまった。 幾万年にもわたり、隆起しつつ侵食され、形成された、高さ百メートルに及ぶ断崖。潮と風と時間にさらされた、生命とそうでないものとを隔てる岩の壁。岬を取り巻く海は、その逆鱗に触れたのか、はるか水平線までも白い波頭に埋め尽くされるている。

どれだけの時間がたったのか、あたりはすっかり漆黒の闇に包まれてしまい、風の音も止んだ。彼が次に見たのは、天蓋に輝く、果て無き星の海。その全てを飲み込もうとするかのように、彼は古代の呪法にとりかかった。

……そこで何を願い、何を見ようとしたのか、現代人であるわれわれには、想像はできても本当に知ることなどできようはずもない。しかし、役の行者がそうであったように、山野を経巡り霊験を極めようとするものは、一人や二人ではなかったはずだ。後に名を残した空海などは、例外中の例外だったのではないだろうか。

今も足摺は、当時の自然を随所に残して、ここにある。そして無名の彼が感じ取った何物かも、その中にひっそりと残され続けているに違いないのだ。
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