押し寄せる波頭を遠く眺めながら、湯に浸かる。湧き上がる白い湯気とともに、心に染み付いた様々な「いやなもの」が昇華していく。

名前も知らない同宿の人達に混じり、透明な湯に晒されていくうちに、生まれて来た時とまではいかないが、ちょっと前のもう少しましな自分に戻れそうな気がする。

もとより過剰な歓楽を求めて、ここに来た訳ではなかったけれども、温泉が湧出していたのは意外だった、と言う人は多い。集落の西のほうの谷間にある湯元から、域内各所の旅館やホテルに分湯されている。派手な湯煙や客引きはない。ただ、透明な湯が、こんこんと湧くばかりだ。

泉源はかなり深く、海辺の温泉にありがちな潮の香りはないが、岬のしぶきを浴びた身には、かえってさらりとした湯の感触がありがたい。

果てしなくほとびていく自分の体をイメージしながら、生きてこの世にある、ただそれだけで幸福だと感じたとしても、やむを得ないのではないだろうか。


     
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